Making of blue bird

rebuilding, starting, again.
Hi, folks. Welcome to Bb's blog.
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# story  こちら寺子屋探偵事務所


うだうだやっててもはじまらないので寺子屋探偵事務所の看板を出すことにした。羊毛で書かれた看板は羊くんにお願いして毛をむしって、いえ、いただいて、かまぼこ板を継ぎ足して表札を作り、その上にくっつけたものだ。羊くんにはお礼に特製の無農薬草をあげたのだが、ぺろっと食べてしまったらしく、事務所でわたしがあちこち電話をかけまわっているところを窓からひょっこり顔を出した。

「ブルーバードさん。足りないよぉ。僕の羊の毛がまた生えるには十分な草が必要なんだぜ。この間もキミにセーター編むからって、毛を刈られちまったし」

なんて言うのでアタマにきて

「何言ってんのよね。こっちだって草をもらうのにどんだけ苦労したと思ってんの。無農薬なんて今じゃめずらしーんだから、さっさとその辺のぺんぺん草でも食べててよ。こっちは明日からのごはんを買うお金を稼がなきゃいけないんだからさ」

羊くんは窓に手をつき、頬づえをついて、ため息をついた。

「なんで探偵事務所なんだよお。儲かるわけないやろ?」

と不思議そうに私がアドレス帳をめくっているのを眺めている。

「昔、一度だけやったことがあるのよ」

「あ、迷い猫を探したってあれ?」

「そうっちゃ」

「ふ〜ん。ぺんぺん草なんて今はないよ。どうしりゃええんだい」

「猫じゃらしとかいっぱいあるやん。ススキでも食べなよ。せいたか泡立ち草もいっぱいあるっちゃ」

「そんなもん食えるかいっ」

羊くんはすねて、ぷいっとどっかへ行ってしまった。




ことの始まりは昨日の晩の仕事場でのことだった。

数学の授業のとき、関数の説明をしていると、ふいにまさみちゃん(中3)が

「先生、うちのおとうちゃん、おらんようになってしもた」

と言うのでまた冗談かと思って

「何バカなこと言ってんの。明日の中間テストの勉強しないといかんやろ?ほれ、ここの問題解いて・・・」

と言うと、まさみちゃんは、机につっぷして泣き始めた。ほかの生徒さんたちもギョッとしてシャープペンシルを持ったまま、まさみちゃんを恐る恐るちら見している。

わたしは困って、まさみちゃんの前にティッシュの箱を置いて、そのままにしておいた。だいたい、泣いているところに何を言っても聞くはずはない。

授業が終わるまでまさみちゃんは机につっぷしたままだった。

みんなが帰ってようやくまさみちゃんは机から顏をあげたので、わたしはほっとした。お迎えが来るころだ。

「おとうさんがおらんなったってホンマなの?」

と聞くと、まさみちゃんはうなずき、わたしにしがみつくように言った。

「ねえ、先生、先生のこの塾、やばいやろ?生徒さんおらんし、やってけんのやろ?おとうちゃんを探してくれたら、お金ぎょうさん払うけん、さがしてくれん?」

「さがすたって・・・」

「前に探偵やったって言いよったやん」

「あれは猫を探したんだよ」

「一緒やん。うちんとこお金はあるみたいやから、おかあちゃん、お礼をきっと出すし、ね、ね!お願い。おとうちゃんがおらんと受験できんし、何も手につかんの。あたし。受験できんと先生も困るやろ?」

「・・・・そりゃまあそうだけど」

「お願い!!!」


あああ、泣く子にゃ勝てないっちゃ。

お迎えに来たおかあさんに事情を聴くはめになってしまった時、わたしは後悔しながらも、やるしかないかなあ、と思うようになっていた。まさみちゃんが落ち着いて受験勉強に励むことができるようにするため、だけやし・・・生活費も稼がないかんし。あーあ。








              つづく



すべてフィクションです。名前等はすべて架空のものです。






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# pieces of blue 〜 story 〜「雪」
 
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彼女の住む町に雪が降ったと新聞で読んだ僕は電話をかけてみようかと、ふと思った。
どうしてそんな遠い町へ引っ越していかなければならなかったかと彼女を責めて喧嘩別れした数年前は、消えてなくなって今はもうただ懐かしい気持ちしか残っていなかった。そうだ。降っては溶けて消えていく雪のように。昔の僕じゃなかった。年が過ぎ昔よりももっと穏やかな僕になっているに違いない。


毎日は一瞬にして過ぎ去るかと思えば、長くどんよりとした時間が果てしなく続いているような僕の日々に比べたら、彼女の日々は毎日が戦いのようで過ごしているんだろうな。

数年別れているのに、僕はまだ彼女を思っている。
すっかり遠くで生活している彼女と僕なのに。どうして気持ちとやらは変わらないんだろう。これが愛というやつなんだろうか。


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あのひとはどうしているかしら。
こんな静かな雪の日には昔ばかりを思い出してしまう。
あのひとはわたしを忘れてしまったかしら。どうしているかしら。

山は砂糖をまぶしたようになって雪が降りしきる風景をわたしはここで見たことがなかったわ。

そんなふうにメールをしてみようか。

わたしはあなたを忘れることはできません。

なんて、添えて、ね。

でも、もう彼女がいるかもしれない。

でも、わたしの気持ちは確かにまだあのひとを想ってしまう。どこにいても。



もう昔のあのひとじゃないかもしれない。もうわたしも昔のわたしじゃないわ。


別れてもあのひとのメールのアドレスをわたしは消せなかった。いえ、消したくなかったもの。いつか、また分かり合えて話ができるかもしれないと思って・・・携帯画面を見つめてこの町へ来る飛行機の中で泣いたっけ。


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「めずらしく雪が降りました」

そこまでメールをしたためて手が止まった。

わたしは何をしているんだろう。

もうわたしたちの時間は失われて過去のものになってしまったのに。もう一緒の時間を過ごすことはきっとできないのに。同じ時間を共有する道の上には一緒にいないのに。遠い町にあのひとはいて、わたしはここにいて、全く違う人たちに囲まれて毎日を送っているというのに。



なのに、なぜ、こころはあのひとのところへ向かうんだろう。



風が窓を揺らすので窓の外を見ると、真っ白な雪が降りしきっていた。
しばらく雪を眺めていると、電話が鳴った。着信の名前を見てわたしは驚いた。

あのひとだった。信じられなかったけれど電話に出た。



雪だって?


最初に言った言葉に笑ってしまった。そうだった。こういうひとだった。



そうよ。すごく降ってる。びっくりよ


新聞で読んでさ、全国版だぜ。きみの住む小さな町が大雪だっていうからさ。どうしているかと思ってさ


おかげで静かにしてるわ


そうか。よかったな




まるで・・・・


まるで、何?


雪が運んでくれてきたみたい


何を?



あなたを



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もう一度。始めてみようか?


彼はそう言って照れくさそうに笑う。


僕たちの間の距離が何キロメートルあってもさ、僕は君を忘れられないんだよ


わたしも・・・あなたを・・・・でも、できるかしら。そんなのって。


できるよ。気持ちがあればきっと大丈夫だよ。まずきみの町へ行くよ。会いに行くから。待ってて。


彼女は涙を拭いて、うん、と言った。









ふたりそれぞれの一緒にいなかった時間も、ふたりの過去も・・・・白く覆い尽くしてしまうまで、雪が降ってほしい、と彼女は思った。

ふたりそれぞれの新しい未来へ向けて・・・・真っ白な雪のような二人の未来へ一緒に彼女と歩いていきたい、と彼は思った。


距離はふたりのこころの前には失われる。




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「おもうひとに 書きつづるや 雪の白」 Bb


















| comments(0) | trackbacks(0) | 02:31 | category: story |
# story*「サンタクロースの娘を愛したスパイ」
 男はスパイで暗殺者だった。
スパイ的な方法でサンタ王国のサンタクロースの娘の彼女に近づいて彼女を恋人にした。
だが誤算があった。何度か王女に会うたびに、男は彼女に本当に恋をしてしまったのだ。それは彼の国の諜報本部には知らせていなかった。王女も森の番人として異国から訪れた彼に恋をしたようだった。

彼の任務はサンタ王国からサンタクロース王を抹殺することにあった。彼の国はサンタ国を乗っ取ろうというコンセプトのもとに働いていた。クリスマスなんか必要ないものであり、子供に、まして大人同士がプレゼントなど与えなくてもよろしいと彼の国の長老は言い放ち、サンタクロースを消してしまうことを彼に命じた。

クリスマス前の水曜の夜中、彼女はトナカイのルドルフに乗って彼の待つ森の小屋にやってきた。雪が降っていて、人目をしのぐように着ている彼女の黒いマントのフードに積もっているのを見ながら彼の胸は痛んだ。

「俺にも人間らしい気持ちが残っていたんだ・・・・」彼は彼女のマントの雪を払ってあげながら胸の内でつぶやいた。彼女は彼に会って嬉しそうに微笑んでいた。

今まで自国のために数々の戦いを経て今、サンタ国に来ているが、本当にサンタクロースを消してしまってもいいものだろうか。自分の国の人々は貧しく、毎日働いても働いても苦しい暮らしをしている。だが、この国の人々は質素とはいえ、いつも笑いに満ちた生活をしているしトナカイたちも楽しそうだ・・・・。異国の地から来た自分に温かい家まで用意してくれ仕事もくれた。自分の国では考えられないことだった。

「あなた、どうしてそんな目でわたしを見るの?とても悲しそう」
暖炉の前でぱちぱち燃える火の横で娘が言った。
男はいっそ彼女に全てを話してしまおうかと思ったが、やめた。
「いや、そんなことはない」
彼は薪をくべながらつぶやくように言った。

無口な彼にわたしは魅かれている。彼女は思った。あまり笑わないこのひとを私は笑わせてあげたい。できればパンを焼いてあげたいわ。

パンを焼いてあげたいわ、と彼女は彼に言うと彼は微笑んで彼女に言った。
「結婚しようか」
男はその言葉がどんなに自分を「自由」にしているか、計り知れないものがある、と思った。
また、それは真実から出た言葉であって今の自分のスパイという仕事とも関係なく、自分の任務とも関係なく、ただ、真実の自分の身から出た言葉だった。


暖炉の横に寝ていたルドルフが片目を開けて二人を見守った。

王女はぱっと顔色が桃色に変わりうつむいてうなずいた。

二人は抱き合い喜びにふるえた。



ルドルフはのろのろと起き上がり二人に言った。
「王女さま、この男はスパイです。それでもいいんですか」
王女は驚き、男の腕の中から離れた。男は何も言わずに王女を見ていた。
「男よ、この王女様を本気で愛しているのなら証明してもらおう。もう自分の国には帰らないと。この国では愛するものたちは決して誰も反対しないのだ。たとえ王女の愛する者がどんな人間でも」

ルドルフはいつしかサンタクロースに変わっていた。

「おとうさま、わたし、彼を愛しています。こころから」
王女はまた男の腕の中へ帰った。
「彼がどんな人間でも。罪びとでも誰でも。愛しているわ」
「そうなら仕方がない。彼に聞こう。さて、どうする。サンタクロースは世界に本当に必要ないのかな。お前の国になんと話すつもりだ」
「わたしは王女を愛しています。でも、今まで犯してしまった罪は消えない。どうすればいいかわからない」
サンタクロースは「ふうむ」と白い髭に手をやり、考えた。
「わしに提案がある」



その週のクリスマスの前夜、サンタクロースはソリに男を乗せて男の国の家々にプレゼントを配ってまわった。サンタは子供にも大人にもプレゼントを配った。

いったいクリスマスって何だろうと何も知らない子供たちは翌朝、ベッドの横のプレゼントを見てどう思うのだろうか、と男はサンタに言った。
「いやいや、夢でもまぼろしとでも思うだろうが、贈り物は贈り物じゃて。ひとりひとり特別な」
「だが、大人はどうだ。大人はそんなまぼろしを追う余裕すらないのだ。この国では」
「いやいや、今にわかるさ。夢がどんなに大事かを」

サンタクロースはホホウ〜と叫んでトナカイたちを走らせて闇夜を駆け回り、やがてその国の長老の家の窓辺に行った。

長老は起きていて椅子に座り、難しそうな本を読んでいた。
「長老さんには『夢』をプレゼントしよう」
サンタクロースはそう言って、はらり、と自分の髭を一本抜いて少し開けた窓から部屋に放り込んだ。

長老はぱたっと本を床に落とすと、深い眠りに入った。

長老の夢には彼のもう亡くなった奥さんがいて、彼のそばでおだやかに笑っていた。ねえ、あなた、クリスマスって本当にあるのね。あなたに会えたわ。子供たちもきっと喜んでいるわよ・・・・。
長老は何のことかわからず、でもいなくなってしまったはずの妻に会えたことが嬉しくて、ただ一緒にいるだけでよかったことを思い出した。すっかり忘れてしまっていた。愛する人と一緒にいるために生きていたんだった。人はみな、そうあるべきで、そのために自分は理想の国を目指していたんだったな・・・・・。何も国の領土を拡大して独裁政治をするのが未来じゃなかったはずだ・・・・。


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サンタクロースの王女と男は結婚した。
王女はパンを焼き、二人は笑いに満ちた暮らしをした。クリスマスになると男は自分の国へサンタと共にプレゼントを配ってまわった。男の国はいつしか昔のようではなくなり、人々の顔に笑顔が増えた。





ね。クリスマスって必要でしょ?(^^ 
クリスマススペシャルエディションでございました。

Have a good Christmas season, my folks.
May you have love and peace.
 
I wish we are the one if you and I are in another country.
With love.

Bbより愛を込めて
















| comments(2) | trackbacks(0) | 00:12 | category: story |
# story*revival*「ゆめのくじら」

 

a play 「夢のくじら」 

 

(鯨)

わたしはずっと旅をしている

はるかに広がる海の下を

はるかに広がる空の下を

わたしはずっと旅をしている

わたしは くじら

 

泳ぎ疲れても

海がわたしを励ます

 

嵐の日にも 波はやさし

波に漂い わたしは待つ

いつか月が顔を見せるのを

月は こころの よりどころ

 

そうやって

わたしは 終わりのない 旅をしている

 

海は ゆりかご

海は ふるさと

 

悲しみも 寂しさも

夢の波間に 溶け去って

優しさだけを かえす 海

 

そして 海は 時もかえす

 

よせる 過去

よせる 未来

よせる 未来

かえす 過去

 

波は 今 時をかえして

わたしは 夢の波間に 泳ぎ始める

 

月のない この 夜の闇

はるか 遠くに 灯りが見える

人の住む町の灯り

旅に疲れた身体を休める場所かも知れない

あの ため息のような灯りをたよりに 泳いでみよう

 

波間から誰かの涙の香りがする?いったい誰が泣いているの

 

(おさご)

「津呂の岬の おさご女郎は 器量にゃ一番 手鍋にゃ二番 棚の汚れ苔は絶えやまん」

 

(鯨)

なんとせつない声

風に乗って 闇の中 聴こえるあの歌 いったい誰が歌っているの?

 

(おさご)

ああ、悲しい

いつまでも悲しい

わてはどうして死んだんやろう

男たちが憎いということも のうなった今

いつまで この岩に座って歌うて おらんといかんのか

 

(鯨)

岩に座って泣いている あの女が泣いているのかしら

なんて美しい女なの

今まで見たことのない美しさ

 

(おさご)

せめて生まれた岬に 帰ることができたら ええのに

ああ

 

(鯨)

あなた どうして泣いているの?

 

(おさご)

誰?

海から聞こえたんやろか?

ああ きっと まぼろしや

わても まぼろしやけん

全ては まぼろしや

 

(鯨)

わたしは くじら

旅の途中

あの灯りに 向かって 泳いでいます

闇夜なのに そんな岩に座って あなたはどうして泣いているの?

つらそうに

 

(おさご)

鯨さんやったんか

わては おさご

この高知の岬の生まれ

室戸岬の津呂の浦

 

(鯨)

あなたのような美しい人を 今まで見たことがない

 

(おさご)

鯨さん

わては美しさなんていらんかった

わてに 言いよる 男たちが あまりに うとましく

わては海に身を投げた

誰にも捕まえられとうなかったんや

もうだいぶ前や

陸に上がりとうても もう無理なんや

わては まぼろしやけん

(おさご泣く)


鯨)

べっぴんさん 泣かないで

わたしが連れて行ってあげようか

 

(おさご)

……え?どうやって?

 

(鯨)

わたしがあなたになって岬へ泳いで行きましょう

わたしとあなたが一緒になれば あなたは泳げましょう

わたしも陸を見てみたい

あの灯りに誘われて ここまで来たわたしです

どうか連れてって下さいな

 

(おさご)

ああ、ほんとうに?嬉しい

 

(鯨、おさごになる。おさご泳ぐ)

(おさご)

ああ

気持ちがええ

泳ぐってええのねえ

今まで岩の上で泣いてばかりのわてやった

こんな嬉しさは 忘れとった

 

……あら、あの歌

くじらさん、聴こえるやろ?

なぜか歌の方へ行ってしまいそうや

 

「三国一じゃ 仔持取りすました

でかした でかした 明日はでかした

大きな大背美を捕った

うれしめでたの思う事叶う……」(捕鯨歌)

 

(おさご)

だめや そっちへ行っちゃ だめや

あれは捕鯨歌や

鯨捕る人らの まぼろしや

今でもあの人ら 鯨を追うて 歌っとるんや

 

ほら 

あの入野の浜辺 月見の浜へ上がろうか

 

(おさご・鯨 陸へ上がる)

 

(おさご)

ああ

わてはこの陸におったんか

砂が足に心地ええ

 

ここにあるのは小袖貝

白い模様のかわいい貝や

 

鯨さん これはねえ

尊良親王のお妃さんの貝なんよ

その昔

後醍醐天皇の御子さんやった尊良親王さん

ここ鬼の国 土佐に流されはった親王さんを追いかけて

都から来たお妃さん

嵐の海に 難破して なきがらは見つからんかった

親王さんは お妃さんの衣のきれはしで 死んだのを知ったんや

それから この月見の浜で

お妃さんの衣そっくりの この貝が見られるようになったんや

お妃さんは小袖貝になって親王さんに会ったんや

あわれな話やねえ

「土佐の海身は 浮き草の 流れ来て 寄るべなき身の あわれともしれ」
(尊良親王)

 

けんど わてもそんな恋をしてみたかった

恋しい人がおったなら

まぼろしになっても 岬へ帰ることができたろう

わてには誰もおらんかった

ただうとましいだけやった 男なんて

 

え?鯨さん

わかっちょう わかっちょう

ここから木のある方へ行こう

ほら たくさんの松の林が見えるやろ

 

木のある方は人の里

人は悲しいもんや

悲しい話が あの山のように

ぎょうさん あるんで

 

ああ、土佐の山の香りやねえ

遠く光る星は海で見るのとは違うんやねえ

人の匂い ぬくもり

すっかり忘れとった

 

鯨さんの言うてた 灯りのたくさんあるところ

こんなに灯りは ぬくいもんやったんか

涙が出るわ

これが懐かしいという気持ちやったんか

恨みばかり歌うてた わては恥ずかしい

 

(鯨)

寂しさも 悲しさも 忘れそうな この明るさ

果てしなく広がる海と空しか

知らなかったわたしだった

この里 土佐は あたたかさに満ちている

あたたかい空気に包まれて わたしは胸がしめつけられる

ここが人の里なのか

 

この香りは何?

夜をつきさすこの香り

わたしたちの目の前のこの大きな木?

薄むらさきの花の咲く

 

(おさご)

ああ、それは栴檀の木や

いい匂いやねえ

 

ああ

わては生きとったら よかった

 

なぜ

わてが ここへ来たかが 今わかった 鯨さん

 

(鯨)

栴檀の花の匂いだったのね

 

(おさご)

ありがとう鯨さん

わてはここでお別れするけん

この大きな栴檀の木の精に わては これからなるんや

わての体は鯨さんにあげる

もう おさごはいらんけん

陸の この木にわてはおるけん

海の風を受けながら

わては葉を落とすけん

 

(鯨)

おさごさん……

 

(おさご)

ありがとう 鯨さん

やっと わては幸せや

幸せになれるんや

紫色の花を咲かせる木になって もう泣かんけん

 

(鯨)

おさごさん……

 

(おさご)

ありがとう

鯨さんも気をつけて 旅をして

また いつか

わてに会いに来て

 

(おさご 栴檀の木の精になる)

 

(鯨)

ああ 花が散っている

おさごさんが わたしの上に 落としてくれているのね

最後のあなたの涙なのね

 

おさごさん さようなら

わたし これから 人の里へ行く

何があるかわからないけれど わたしの灯りを探しに行く

 

ああ なんて美しい世界

海から吹く風は山へ向かうように

わたしは旅をする

 

やはり

そうやって わたしは旅を続けていくのね

 

どこまでも青い この世界を

どこまでも広い この高知を

わたしは旅を してゆく

あなたが見つけた幸せを わたしも見つけに行く

さようなら……

 

(陸に向かい、歩いていくおさごになった鯨)

 

「天が せもうてか

すまる星(ぼしゃ)なろうだ

海がせもうてか 

海老や(えびゃ)かごうだ」(高知のわらべ歌)

 

 

〜終〜

April 15th  2001

 

 

 



〜参考文献〜

「日本の伝説 22 土佐の伝説」(角川書店)

「四国路の伝説」 武田明   (第一法規)

「徳島高知のわらべ歌」日本わらべ歌全集22 (柳原書店)

「南路志 土佐国資料集成 2」 (高知県立図書館)

「高知の研究 7」民俗篇    (清文堂)

「土佐の民話 35 土佐篇」  (未来社)

桂井和雄土佐民俗選集その1「仏トンボ去来」 (高知新聞社)

               その2「生と死の雨だれ落ち」(同上)

「全國昔話資料集成 23 土佐昔話集」 (岩崎書店)

    


〜フィクションです〜

昔、こういうものを書きました。
書いてから10年経ったんだ・・・と思うと非常に感慨深く、思いが尽きません。
書かせて下さった島田さん、どうもありがとう。私にとってとても印象的な年でした。


今年の春。鯨の夢をみました。
やはり春に、なぜか鯨は私の夢の中に現れて一緒に泳いだり、泳いでいるのを眺めたりします。なぜ春に夢に鯨が現れるのか私の中の永遠の謎です。



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私も陸へ上がったこの鯨のようにずっと旅を続けてきました。自分を待つ灯りを見つけるために。









 

 

 

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